早速いきます(イントロは後回しにしました↓)
前回はマクロ・機関投資家目線からのアフリカ、またAfrican Free Trade Agreement (AfCFTA)やスリランカ・ザンビアの債務不履行問題などハイレベルで注目するべきテーマに関して話させて頂きました。
今回はグローバルのVC環境に触れつつ、もう少し、アフリカVCに特化した話(プレーヤー、エグジット、等)や、エコシステムが目指す世界観、我々参加者がトラックするKPIに関してお話しさせて頂きます。
次回からはスタートアップのセクター・個別銘柄に関して話そうと思いますが、下の方に簡単にPollがございますので、ご関心ある領域を是非お伺いさせて頂けますと幸いです!
Connecting the Dots - Why everyone needs a strategy
一言で「アフリカに投資しましょう」というのも無理な話で、世の中で起こってること、今後の変化を踏まえて、アフリカに投資する・しないを判断する必要がある。ここ1~2年のアフリカ市場の発展を見てると「分からないからやらない」が通用するレベルではもうなく、(私も証券会社時代、”Not knowing is not good enough”と注意されてました)20年前の中国、7年前のインドの「気付いたら遅すぎた」という誤ちはどうしても避けたい。更に難しいのは、コロナやロシア・ウクライナ戦争など今のマーケットは未曾有な出来事の連続で、飛び交う情報を繋げて包括的で適切なビジネス判断する必要がある。
まず、グローバルでも先進国のVC環境は当面厳しい。前回も書いたが、スタートアップやVCが金利やクレジットリスクを無視してPSRの掛け算で投資を決める時代は終わり、かなりSelectiveな時代に入ります(これは話すと長くなるので先に進みますが、一部のアーリーステージのスペシャリストVCには有利に)。アメリカ・中国は特にバリュエーションの調整幅が大きい分、ドライパウダーが残ってるVCはまだマクロ成長があり、相対的低いバリュエーションのエマージングに向かっている。直近で、シリコンバレーのVC2社からアフリカ案件のDD依頼がありました。
もう一つ重要なのは「金の出所は?」という視点。VCにもLPがいるわけで、いわゆるAsset Ownerの心理も重要です。日本でいうとメガバンク、年金機構、生保損保、政府ファンド、事業会社、信託銀行、等。ポートフォリオを考えると、大きく占めてる債券も株式でパフォーマンスは出ておらず、オルタナティブ投資にシフトする必要があります(GPIFの運用収益は2四半期連続の赤字)。しかし上記の通り先進国VCは調整局面、不動産市場はグローバルで踊り場、どんな時でも勝つ宿命のヘッジファンドは50年ぶりのWorst Performaceと、お金の行き先が限定されている。
どちらをとっても残る選択肢は、エマージングマーケット。その中で、為替はまだ米国の利上げ懸念が、債券はディフォルトリスク懸念が残り、上場株は基本ETFしか流動性がない。残される選択肢は未上場のPrivate Equity, Venture Capitalとなる。
ここからは、何故その中でアフリカなのかに進む。
スタートアップの資金調達、世界唯一の3桁成長
さあ、参りましょう。2022年の1Qを振り返ると、米国とアジアの合計資金調達額は-1% YoY、欧州は-33%YoY、ラテンアメリカは-35%と、揃って減少。インドも直近7月までで見ると、前年同期間から-76%減っている。そんな中、アフリカのスタートアップは1Qで前年比+150%と大幅に伸びている。もちろん「そもそもハードルが低い」という事実はあるが、本当にそれだけで片付けていいのだろうか?水面下で何か変わってきてるのではないか?
まさにその通りで、間違いなく2022~2023年はアフリカスタートアップ投資の転換期と考える。通信環境、スマホアクセス、1GBデータ通信料金、ネオバンク、など、過去に東南アジアやインドがTake-offした環境が徐々に整ってきており、更に最新のテクノロジーが乗ってくるので飛躍的なスピードでユニコーンが生まれている。2021年にはユニコーンが4社誕生したが(セネガルのWave、エジプトのSwvl、ナイジェリアのOpayとFlutterwave)、$1Bのバリュエーションになる期間は平均で3.75年だ。因みに2019年、2020年にユニコーンになったInterswitchとFawryはそれぞれ17年と12年かかったので、2021年でいかにTechnological Break-throughが浸透したかが分かる。セクターで見るとフィンテック・ペイメント、モビリティ、人材テック、Eコマースは既にユニコーンを排出しており、個人的には今後ヘルスケア、アグリ、EV、コンテンツで破壊的なビジネスモデルが出てくることに注目している(既にシリーズB以降の会社も出てきてる)。
インナーサークルトーク:目指すアフリカVC市場像
どのマーケットもそうだが、インナーサークルにいることは極めて重要である。アフリカの場合、VCのみならず、そのLPである国際機関(世界銀行、IFC、欧州投資銀行、アフリカ開発銀行、等)も積極的にこのネットワークに入ってくる(African Private Equity and Venture Capital Association、通称AVCA)。因みに、AVCAの2021年サーベイでは、機関投資家(LP)の9割は今後3~5年でアフリカへのエクスポージャーを増やすという結果が出ている。AVCA界隈の議論では「どのスタートアップが良い・悪い」だけではなく、「アフリカのVC/PEエコシステム発展のために何が必要か」が中心的に語られる。アフリカのスタートアップ合計資金調達額(21年は$5B、22年は$8~9B予想)はまだ世界の1%もない(2021年$643B)。また、アフリカVCからの調達は全体の2割に留まり、45%はアメリカ系のVC、20%は欧州系のVC、8%はアジア系のVCと、まだまだ外部マネーに左右される。
よりサステイナブルなエコシステムにするために、下記のようなKPIを見る:
・スタートアップ資金調達額はGDPの0.5~1% →VCの教科書に使われてる”Venture Capital and the Finance of Innovation”、国のGDPの約0.5~1%がスタートアップ資金調達額のベンチマークと示されている。アフリカの2030年のGDP予想は約$6.7Tと言われており、つまり$33.5B~$67Bが目安となる。今年$8Bを到達したとしても、サステイナブルにするためにはまだ足りない。
・国内VC比率を20%から80%に →上記にコメントした通り、アフリカのスタートアップ投資は80%海外からだ。日本でも、海外VC投資比率は大体20%前後(20年は13.6%、21年は23.6%)で、”African Local VC”の存在が求められている。この点には多くの国際開発機関が積極的に取り組んでおり、直近ではOui CapitalやFrontEnd Venturesなど、アフリカ現地VCへのサポートが手厚くなっている。
・ローカルファウンダー比率、女性ファンダー比率を50%に →上記2点に比べるとまだ議論が足りていないトピックだが、間違えなく今後更に議論されるべきターゲットである。やや不謹慎ではあるが、特に欧州(イギリス・フランス・ポルトガル)は植民地化の歴史があることから、アフリカ諸国の発展のために厳格なLP出資ガイドラインなどを設定している。
上記から分かる通り、アフリカのVCエコシステムの発展にはスタートアップやVCだけではなく、資金プロバイダーの国際機関(DFI)が大きな役割を担っている。日本で言うと、JBIC、DBJ、JICA、JICなどの政府系ファンドがVCに対して「女性ファウンダー比率を50%」「インパクト評価プロセスの導入」「チームのダイバーシティ条件」などをDDの際にチェックするイメージ。
個人的には、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」は、先進国ではなく、そもそも世の中のペインポイントが集結し、測れるインパクトがあるアフリカで実証実験されるべきと考える。
気になるEXIT戦略、7~8割がM&A
VC全般の傾向として、今後求められるスキルセットは「ソーシング」から「バリューアップ、エグジット」に徐々にシフトする。日本もそうだが、多くのVCはポートフォリオ企業のエグジットに苦戦している。CVCは本業とのシナジーがなかなか生めず、VCはセカンダリー市場がまだ未熟(来年から期待)でマザーズ上場一択、などとにかく現ポートフォリオの管理・精算を考える必要がある。
アフリカに関しても、「エグジットは?」という質問をよく受けるし、多くの機関投資家がLP出資に踏み切れない一番の理由でもあった(AVCA調査ご参照)。感覚論だが、エグジット方法はざっくり7割がM&A、2割がMBO(経営陣が株を買戻す)、1割がIPO(ニューヨーク、ロンドン取引所など)。2021年のアフリカPE業界の実績で見ると、グローバル含む事業会社からの買収が全体エグジットの80%、MBOエグジットが15%と、徐々にM&Aエグジットの比率が高まっている。アフリカ老舗ファンドは、150社以上あるポートフォリオ企業の半分を既にエグジットしており、平均エグジット期間は5~6年、リターンは2~2.5xという驚異的な実績も既に出てきている。
具体例としては、今年に入ってイギリス系PEのHelios Investment Partnersが双日にナイジェリアのエネルギー会社を売却するなど、本邦企業が絡んでくる案件も少しずつ出てきている。このように、アフリカのVC/PEでしっかりエグジットしてリターンを出すためには投資後のハンズオン・バリューアップが出来るかどうかが重要であり、ハンズオフ型の投資スタイルは通用しにくい。
アフリカに限らず、個人的にはバリューアップ・エグジットのスペシャリスト部隊をもっと増やし、エコシステムの循環を良くする方向に今後2~3年はより意識する必要があると考える。
上記になくてもコメント・メール頂ければ対応させて頂きます!
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本ニュースレターではグローバル・アフリカの注目トレンドをピックアップ致します。グローバルマーケットの中で現在アフリカがどういう位置づけにあるか、リスク・リワードが何なのか、スタートアップエコシステムがどうなってるのか、等を紐どけたらと思います。
マクロ動向編と、個別スタートアップ編は別で配信させて頂きます(コメントは個人の見解であり、投資助言ではございません。)